「…あっ、黒川さん、ま、待ってください…っ!」
「あぁ? 今さらなにビビってやがる」
「で、でも…、ソコは…」
黒川が手を伸ばしてきた先を恨めしい目で見つめ、藤咲は困り果てた顔でうつむいた。
「なんだ、なにか文句あんのか」
「だって…、僕もソレしようと思ったのに」
藤咲がうっすら目尻を赤く染めると、黒川は身を乗り出し、ここぞとばかりに不敵な笑みを滲ませた。
「こういうのは早いもの勝ちだろ」
「そ、そうなんですか?」
「てめえは大人しく見てりゃあいいんだ。どうせすぐ終わるんだからよ」
勝手に決められるとそれはそれで悔しい。
確かにすでに何度も弾けさせてしまい、藤咲は降参寸前なのだけれど、黒川はやめようとしない。
「じゃあ、これで最後にしませんか。そろそろ、みんなも戻ってくるだろうし、これ以上はまずいですよ。もし見られたら……」
「はぁ? なに言ってやがる。いつもやってることじゃねえか。それに誘ったのはてめえだろうがよっ。俺がこれぐらいで満足すると思うのか」
「そんなぁ…」
藤咲は泣きそうな顔で後悔する。
今日は昼から仕事がなく、暇を待て余した中田と星野はパチンコ店へ出かけ、事務所にはふたりだけだ。
黒川とたわいない話をしているうちに、なんとなくそんな雰囲気になってしまい、誘ったのは藤咲だった。軽い気持ちだったのだが、まさか黒川がこんなに本気になるとは思っていなかったのだ。
「だったら、奥のソファに移動しませんか。ここは入口から丸見えだし、急にお客さんでもきたら――」
「ぐだぐだうっせえな。引き延ばそうとしても無駄だ。いい加減、観念しやがれ」
「わ、わかりました。では今、心の準備をしますから」
「挿れるぞ」
「も、もうっ 」
藤咲はぎょっとして身を硬くした。
黒川が手にした楔を穴に突き刺した瞬間、樽の真ん中に立っていた黒ヒゲ人形が勢いよく弾け飛ぶ。
「わっ!」
「…ちっ、当たっちまったか。これで八勝二敗だな」
「うわー、危なかった。ソコ僕が選ぶところでしたよ」
「おい、もう一回やるぞ」
「ま、まだやるんですか……」
その後、帰ってきた舎弟たちも交えて、黒ヒゲ危機一髪に夢中になる黒川だった。
――END――
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