光輝が田舎の家で暮らすようになってから、カイザーは毎日かかさず光輝に会いにきた。猛暑日だろうが台風の日だろうが、歩いて三十分の距離を苦にもしない。
飼い主だったおばあさんたちの家で世話になり、福祉施設のバイトにも出かけてはいるが、どうしても一日一回は光輝の顔を見ないと落ち着かないらしい。
もしかしたら自分と父親に気を遣って、おばあさんと暮らすことに決めたのかもと心配して尋ねたら、カイザーは「そうじゃない」と即答した。
「俺が本当に一人前になったら、光輝を迎えにいくからふたりで暮らそう。今は毎日顔を見られるだけで充分だ。離れていても、心は光輝と一緒だから」
そう言って男らしい顔で笑われると、光輝は胸がきゅんとなって、「俺も……」と顔を赤らめた。
カイザーが光輝の家をおとずれるのは朝晩どちらかで、仕事に出かける前におはようのキスをしにくるか、夕食後の散歩をかねて遊びにきて、おやすみのキスをして帰るパターンだ。朝はいい、問題は夜だ。
光輝の部屋で一緒にテレビを見たりゲームをしていて、なんとなく甘い雰囲気になることがある。そういう日はたいてい光輝をほしがった。
顔を見られるだけで充分だと言いながらも、いったん欲情してしまったカイザーは抑えがきかず強引だ。光輝としても受け入れたい気持ちはあるのだが、行為が連日続くと体にも負担がかかる。そういうときは挿入はなしで、互いにこすり合って終わるようにしている。けれど、今夜はなんとなく予感があった。
この数日してなかったし、カイザーがバイト代で光輝にプレゼントを買ってきてくれたのだ。なにも今回がはじめてではなく、カイザーは毎月バイト代で、おばあさんと光輝たちにささやかな贈り物をしている。
そしてその贈り物の日は、だいたいすることになる。
「それで、今日はなにを持ってきてくれたんだ?」
恒例にはなっていても、毎回、開ける前はわくわくする。もちろん何度も遠慮しようとしたのだが、『光輝のことを考えながら選ぶのが最高に幸せなんだ』と言われると、もうカイザーの好きなようにさせたかった。
「あれ、この箱いつもより大きいな」
「駅前のドンチで買ったんだ。絶対、光輝に似合うぞ。光輝もきっと気に入るだろうし、俺はもっと楽しい」
青灰色の瞳をきらきらと輝かせているカイザーを前に、光輝は小首をかしげながら、リボンを解いて箱を開けた。
「ん? なにこれ……」
箱の中に入っていたのは茶色の毛布っぽい布だった。手に持って広げて全容を確認すると、ぎょっとなった。
「ちょ……待て、これ、着ぐるみじゃないのか」
「コーギーの着ぐるみパジャマだ。すごく可愛いだろ」
前開きのボタンで、全身がすっぽり包まれるタイプ。フードが犬の顔になっていて、耳や尻尾までついている。
「あのさ、これを俺にどうしろと……?」
なんとなくいやな予感はしながらも、横目でじろりと睨みつけて尋ねると、カイザーは鼻息を荒くした。
「光輝、今すぐこれに着替えてくれ」
「今すぐって、どうせ着るだけじゃすまないんだろ〜」
熱っぽく目を潤ませてつめ寄ってくるカイザーから、じわじわと後ずさりしてベッドに背中をぶつけた。
「もう、やる気満々じゃん」
「一度でいいから犬の光輝を抱きたい」
内心でやっぱりなと深いため息をつく。コスプレでの行為はしたことがないものの、あまり気が進まない。
「犬、犬なぁ〜……。でもこの着ぐるみ、あまり犬っぽくないぞ? 足だってすげえ短いし、顔だってほら――」
言ってる最中に強く両肩をつかまれて見下ろされた。
「いいや、光輝ならなにを着ても絶対、可愛い。裸でも可愛いのに、もし犬になってくれたら、俺は――俺は」
感極まった顔で懇願されると、まるで愛犬におねだりされているような気がして、だめだと言えなくなる。
「わかったよ、着ればいいんだろ」
立ち上がっていそいそと着替える。サイズはぴったりで意外と可愛かった。その姿を食い入るように見つめて
いたカイザーはふいに悲しげな顔で、「悪い、ちょっと、トイレを貸してくれ」と前屈みになって立ち上がった。
「えっ、おまえ……、もしかしてもう――」
まさか、見ただけで達ってしまったのかとは訊かないが――。カイザーは耳を垂らせた大型犬のようにしゅんとして、不本意そうな口調でぼそぼそと告げた。
「光輝が……可愛すぎるからいけないんだ」
控えめに責められる。なんだかカイザーが気の毒に思えてきて、光輝は「ごめんな」とあやまった。
その後、本番へともつれ込んだのだが、犬プレイに興奮しまくりのカイザーに、光輝は弱り果てるのだった。
――END――
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