恋になるその日まで 番外ショート
〜こんなはずではなかった〜




 ――こんなはずではなかった。
 千尋とつき合い始めてから三カ月余り。その台詞は天志にとって、お決まりの口癖のようになっていた。
「天ちゃん、どうしたの?」
 ベッドに裸で横たわった恋人が、不思議そうな顔で見上げてくる。目に入れても痛くないぐらい、可愛くてたまらない千尋。
 年下の恋人と、念願の一泊旅行に出かけた。ホテルは日本最高峰が臨めるロイヤルスイート。
 最高級のレストランで舌鼓を打ち、ジャグジー付きの風呂にも一緒に入った。文句なしの甘い夜になるはずだったのだが――。
 今、千尋の若々しいピンク色の性には、不粋なものが被せられている。なんなんだ、これは。
 初めて身体を重ねた日から、天志は紳士なセーフセックスを心がけている。今夜は目ざとくソレに気づいた千尋が、なんと自分もつけたいと言い出したのだ。
「いや…あのな千尋…、おまえはべつにつけなくていいんじゃないか? 必要なのは俺だけだし」
「だけど、そしたら俺、一生ゴムつける機会がないってことじゃん! せっかく男に生まれたのにさ、なんかそういうの…、ちょっとつまんない」
「つまんないと言われてもな…」
 一生、つける機会がない。つまりそれは、天志以外とやることはないと、宣言しているようなもの。そんな甘い告白に天志がご機嫌にならないわけがない。
 つい、「じゃあ、俺がつけてやるよ」と笑顔で言わなくてもいい余計なことを言ってしまった。装着してやってるときは楽しかったが――、いざつけ終った姿を見ると、正直なところ考え込んでしまったのだ。
 これでいいのか、と。いや、なにかが違うだろう。
「ねえ、天ちゃん、早く続きしよ〜。……挿れてよ」
 首にぎゅっと抱きつかれ、耳元でおねだりされれば 、萎えかかったシンボルもふたたび元気を取り戻す。
「……千尋」
 健やかな両足を割り開きゆっくりと腰を入れていく。丁寧に解された千尋の中は、熟れた果肉のように蕩けていて、天志を包み込むように受け入れた。
「あっ、や…」
 千尋の様子を見ながら、浅い箇所を加減して擦る。
「んっ、天ちゃん、そこいい…気持ちいい…」
「俺も…、すごくいいよ」
 いったん身体を繋いでしまえば、快楽に溺れるだけだ。
「い…い、いや、やっぱりダメ…っ!」
 それなのに千尋は、しばらくすると眉根を寄せたまま頭を振り、天志の肩を押し返して訴えた。
「ど、どうしたんだ千尋、痛かったか?」
「違う、ソ、ソレ取って…、窮屈で気持ち悪いよ」
「……はっ?」
 やっぱり――、こんなはずではなかった。


――END――




閉じる
inserted by FC2 system